ことばを紡ぐ

翻訳中に出逢ったことばたちについての覚え書き的なもの

聞き流すだけじゃ しゃべれるようにならない

先日も書いたが、パリに行くことになったので、フランス語のにわか勉強を始めた。以前から母と妹がパリ行きを目指してフランス語の勉強をしていたらしく、パリに行くことになったと知らせたら、持っていたフランス語の教材をいろいろと貸してくれた。その中にあったのが「聞き流すだけでしゃべれるようになる」といわれる某社の音声教材。

この教材が登場した頃から「聞き流すだけでしゃべれるようになんかなるわけない」と疑問には思っていたけど、最近盛んに流れるようになったTVコマーシャルでは、若きプロゴルファーもお土産屋さんのおばちゃんもそこそこの英語をしゃべっているので、英語なら日本人の場合、中・高で6年ぐらい勉強した下地があるから、しゃべれるようにならないこともないのかなぁ、と思い始めたところだった。

そこでタイミングよく、ほぼ知識ゼロの状態でフランス語版に挑戦することになった。これで旅行で困らないくらいしゃべれるようになれれば、おおいに宣伝して差し上げようと思ったが、最初の数分聞いただけで「こりゃダメだ」と思った。

まずスタートすると音楽が流れてくる。ゆったりとしたクラシックだが、そっちに気をとられて言語に集中できない。

そして、1つのセンテンスが長すぎる。付録のテキストの目次を見ると、日本人夫婦がフランス人の家庭にホームステイさせてもらうという筋書きでレッスンが進んでいくのだが、その状況説明がテキストでは4行もあるのに、それを一気に読み上げる。

フランス語と日本語の順番もよくない。フランス語が先に流れ、あとから日本語を聞いて「ああ、そういう意味か。そういうときはなんて言うのかしら?」と思っても、すでにフランス語は聞き流した後。ちっとも覚えられないのである。

そもそも、広告に「赤ちゃんは机で勉強しないで耳で言葉を覚える」なんて書いてあるが、言語の習得には臨界期がある、というのは言語学の常識だ。日本語OSがインストールされてしまっている大人がいくら外国語のシャワーを浴びても、それだけでは話せるようにはならない。

それに「しゃべる」という行為には、口周辺の筋トレが重要だ。使ったことのない単語は、最初はゆっくり、一音一音はっきり発音してみて、口にその動きを覚えさせなければならない。そういう意味でも、聞き流すだけでしゃべれるようになれるわけなんてないのだ!

というわけで、フランス語は早々にあきらめて、最近は国際会議で使う英語の本を購入し、音声をICレコーダーに録音して通勤時に車の中で聞きながら口の筋トレをしております。