ことばを紡ぐ

翻訳中に出逢ったことばたちについての覚え書き的なもの

翻訳者の寿命

20年近いつきあいのある翻訳会社の新しいコーディネーターから初めての仕事をいただいた。とある外資系企業の日本語サイトを請け負うためのトライアルだという。人材を募集するサイトなので、単純な翻訳ではなく、英語の原文を基にしたコピーライティングっぽい翻訳という注文だった。

元の英語自体がまったくキャッチーでもコピーっぽくもなく、普通の名詞フレーズだったので、かえって難しくて悩んでしまったが、直訳すぎず原文から離れすぎずというレベルの訳を書いて納品した。

もちろん大絶賛されるとは思わなかったが、思いもよらなかったダメ出しが返ってきた。使った単語の1つが「古めしい」というのだ。「表現が普通すぎる」というダメ出しはありえる、とは思ったが、まさか「古めかしい」と言われるとは!

私の感覚では、今でも普通に使う単語だと思っていたので、不意打ちを食らった感じだし、なんとも言えない屈辱感というかショックというかで、ずどーんと落ち込んでしまった。

メールでしかやりとりしていないので、そのコーディネーターの正確な年齢はわからないが、おそらく20代後半か30代で、私よりも一回り以上年下ということになる。

言葉のセンスというか翻訳の好き嫌いは本当にさまざまなので、どうダメ出しされても焦ったり気分を害したりすることはないが、この年代の人がクライアントになって、私の翻訳が気に入らないということは、もう翻訳者としては寿命なのかな、という思いがチラッと頭の隅をよぎった。

その後提出した第2案もあまり気に入らなかったようで、本人が考えたという別案を提出したという。それを見ると、今度は逆に「私はこういう表現はちょっと抵抗あるな」という訳になっていた。彼女と私とでは本当に言葉のセンスが違うんだろうと思う。次の仕事は断ろうかな。